1 発想のきっかけ

 京都市は、近年のいわゆる「オーバーツーリズム」により、地元交通の大渋滞や、マナーの悪い一部の観光客による騒音やゴミ廃棄、プライバシーへの配慮のない写真撮影など、観光の引き起こす多くの課題に頭を悩ませていました。ところが、2020年以降は新型コロナウィルスの感染拡大により観光業は大打撃を受ける一方、上述の観光問題は影をひそめることとなりました。しかしながら2022年春、コロナの行動制限が大幅に緩和された結果、観光客が元に戻りつつあり、ふたたび観光課題に向き合う必要が生じたところです。
 このような観光に対する諸々の課題に向き合い、それを効率的かつ効果的に解決に導くためにはどうしたらよいか。我々は、観光地のデータやそこに向かう人口の流動データ、道路の混雑状況のデータ、観光地周辺に暮らす住民のデータなど、観光に関する様々なデータを集め、それを総合的に分析することが必要であると考えました。
 その分析の第一歩には、まず観光名所の場所や、その規模、交通アクセスなどを知るための「基礎データ」が必要です。ところが、京都市の観光名所に関するオープンデータを検索しても、分析に使えるような満足なデータが全く見つからないことが分かりました。
 そこで我々UDC京都チームは、「ないなら自ら作ってしまおう!」との発想のもと、神社仏閣を自ら訪れ、データを収集し、観光名所に関するオープンデータの作成を開始しました。その取組のスタートがこの「京都市東山区の『検索キーワード付き』観光名所オープンデータ」です。
 まずは観光名所の集中している東山区から取組を開始し、ゆくゆくは京都市全体を網羅、最終的には全国にこの取組を広げたいとの野望を描いています。

2 「検索キーワード」の活用と将来ビジョン

 少人数のチームが観光データを作ろうと意気込んだとしても、そのうち疲れてきて完成しない、あるいは飽きてしまって更新が滞ってしまうことは往々にしてあると思います。我々のチームでは、その課題に対応するために、これまでの観光データにはない仕掛けを考えました。それが観光名所の「検索キーワード」です。
 昨今SNSの普及が急速に進んでいますが、その広まりを支える仕掛けの一つは「#ハッシュタグ」などと呼称される検索用のキーワードです。自分の発信を多くの人の目に留まらせるためには、このキーワードをいかに工夫するかが鍵となります。この観点から、我々のチームでは観光名所ごとに分類したSNSで使えるキーワードを大量に用意しました。SNS上で自己の発信を広めたいユーザーにこのキーワードを使ってもらうことにより、我々のオープンデータ自体に世間の関心を惹きつけ、このオープンデータを支える人材の募集につなげようと考えています。京都の観光名所に関心を持つ方は全国に大勢おられます。京都とデータに感心のある方をこの取組に引き込み、取組を支える人材とともにこのオープンデータも育っていく、そのようなビジョンを描いています。

3 成果物のデータ

  • 京都市東山区観光名所 基礎データ(xlsx形式) 
  •  東山区にある観光名所の基礎データです。現在35箇所のデータを作成しています。

  • 検索キーワードデータ(xlsx形式) 
  •  上で解説した検索用キーワードのデータです。SNSで発信する際のハッシュタグ等にぜひご利用ください。

  • 写真データ(xlsx形式) 
  •  メンバーが撮影した神社仏閣の写真データのURLを格納しているデータです。写真自体もCC-BY4.0オープンデータとしてご利用いただけます。

  • 京都市東山区観光名所LOD 
  •  上記3つのデータを、リンクト・オープンデータ(LOD)の形式で作成したものです。また、利活用促進のためのSPARQLエンドポイント(API)も備えています。
     ■ 基礎データLOD(turtle形式) / LODの視覚化
     ■ 検索キーワードデータLOD(turtle形式) / LODの視覚化
     ■ 写真データLOD(turtle形式) / LODの視覚化
     ■ SPARQL ENDPOINT URI (REST API)
     ■ SPARQLクエリフォーム

  • メタデータ仕様書
  • 4 データの活用事例

    (1)基礎データ活用 Google マイマップの作成・公開

    作成した「基礎データ」をGoogleマイマップに落とし込んだ事例です。これだけでも、狭いエリアに観光名所が密集している様子がよく分かります。 このような、地図上にデータを展開することによる視覚化は、様々な観光課題を解決に導く分析を行う第一歩となると我々のチームでは考えています。

    (2)基礎データ活用 Google Earth での活用

    基礎データをGoogle Earthとコラボさせることにより、より高度な分析が可能となります。 企業におけるエリア・マーケティングや、自治体や地域団体における課題解決のための詳細分析など、多くの利活用シーンが想定されます。

    (3)巡回セールスマン問題による京都市東山区の観光名所めぐり最適ルートの作成

    巡回セールスマン問題とは、地点の集合と各2地点間の移動コスト(たとえば距離)が与えられたとき、 全ての地点をちょうど一度ずつ巡り出発地に戻る巡回路の総移動コストが最小のものを求める(セールスマンが所定の複数の地点を1回だけ巡回する場合の最短経路を求める)組合せ最適化問題です。
    このような問題を考える上での教材として、あるいはそれを発展させ、交通渋滞の解消などの現実の観光課題の対策を検討するための手法として用いることができそうです。
    (参考文献)フューチャー株式会社:行き先がめちゃくちゃ多くても大丈夫。jspritで効率よく目的地を回っちゃおう

    (4)各データの共通キーによるデータベース活用

    今回作成した3種のデータ(基礎データ、検索キーワードデータ、写真データ)は、共通のキー(基礎データID)を持たせており、リレーショナルデータベースシステムにインポートした際の「共通キー」として利用可能です。 煩わしいデータ・クレンジングの作業なしに、3種のデータを連動させたアプリケーションの開発にすぐに着手することができます。

    (5)世界共通言語としてのLODデータの活用

    グローバル化の進展に伴い、我が国の観光地に対する海外からの注目度は近年ますます上昇しています。 今回作成したLODデータは、データの各項目に対し、世界中の方が理解可能な語彙(メタデータ・スキーマ)を設定しました。 この観光名所LODの世界への発信は、政府や自治体の観光政策の推進にも大きく貢献するものと考えます。

    5 LOD の SPARQL Endpoint(API)の活用によるWEBアプリ作成例

    作成例1

    の基礎データをすべて

    作成例2

    をSNSで発信するときのハッシュタグを

    作成例3

    に関連する写真をランダムで1枚

    作成例4 SPARQLクエリ練習フォーム


    6 活動メンバー(50音順)

    青木 和人
    呉服 淳二郎
    林 正洋
    © 京都UDC 観光オープンデータチーム